垂木【たるき】

「垂木(たるき)」とは、屋根の**骨組み(構造材)の一部で、屋根の傾斜に沿って棟から軒先までかけられる細長い木材のことです。

🔹役割

垂木は、屋根の荷重(瓦・板金・雪・風など)を支え

それを桁(けた)や梁(はり)へ伝える重要な部材です。

また、屋根の勾配(こうばい)や形を決める要素でもあります。

🔹種類(用途・形によって分けられます)

1. 母屋垂木(もやたるき)

 → 母屋(もや)に直接取り付ける一般的な垂木。

2. 登り垂木(のぼりたるき)

 → 棟から軒へ斜めに登るようにかける垂木(登り梁構造など)。

3. 扠首垂木(さすたるき)

 → 扠首(さす)構造に組み込まれる垂木。

🔹材料

• 木造建築では杉・ヒノキ・米松などが多い

• 現代建築では集成材や鉄骨・軽量鉄骨に置き換わることも

まとめ

項目内容
読み方たるき
位置屋根の傾斜に沿って棟から軒先まで
役割屋根材を支え、荷重を桁や梁に伝える
材料木材(杉・ヒノキなど)、集成材など

垂木には、単なる構造材以上の役割もあります。

たとえば、寺社建築では垂木の本数・間隔・形状がそのまま美意識の象徴となり、「扇垂木」「化粧垂木」などとして意匠的に表現されます。

垂木の歴史 

ー 屋根に宿る、美と構造のリズム ー

建築を見上げたとき、屋根の下に整然と並ぶ木のライン。

それが「垂木(たるき)」です。

屋根の形を決め、建物に陰影を与えるこの部材には、

日本建築の美意識と構造技術の歩みが刻まれています。

■ はじまり ― 重厚な屋根を支えた古代の垂木

日本で垂木が登場したのは、飛鳥・奈良時代

仏教建築とともに伝わった大陸の技術により、

法隆寺や東大寺などの屋根には、

太く力強い垂木が棟から軒へと伸び、

堂々たる構造を支えていました。

当時の垂木は「力」の象徴。

屋根を支えるだけでなく、

建物の存在感そのものを形づくるものでした。

■ 和様の誕生 ― 美しさを意識した平安の垂木

平安時代に入ると、建築は日本独自の「和様」へと進化します。

屋根は軽やかに、勾配はやわらかく、

垂木も細く繊細な姿に。

寝殿造の屋根を支える垂木のリズムは、

風の流れを映すように優雅で、

構造を超えて「美」としての存在へと変わっていきます。

■ 禅の美学 ― 鎌倉・室町の二軒垂木

鎌倉時代、禅宗建築の登場が垂木の世界を変えました。

二軒垂木(ふたのきだるき)」という、

上下二段に重ねた構造が誕生。

強度を高めながら、軒先に深い陰影を生み、

屋根に独特のリズムを与えました。

また、唐破風や扇垂木など、

垂木自体が意匠として主張する建築も増えます。

この頃の職人たちは、

「並べる」ことの中に美を見出し、

一本一本の垂木に、建物の魂を込めていました。

■ 江戸の暮らし ― 化粧垂木の文化へ

江戸時代、垂木はより身近な存在に。

町屋や社寺の軒裏を彩る「化粧垂木」が生まれ、

屋根の裏側までも美しく魅せる文化が広がりました。

見せるための垂木、隠さない構造。

それは、**「美は機能の中にある」**という、

日本人の建築観を物語っています。

■ 近代から現代へ ― 技術と美の共存

明治以降、鉄骨やトラスが主流になる中でも、

垂木は日本建築の象徴として残り続けました。

いまでは、プレカット技術により精密に加工された垂木が、

屋根の形をミリ単位で支えています。

そして、通気垂木や付加垂木など、

環境性能を高めるための新たな形も生まれました。

それでも変わらないのは、

垂木が「屋根のリズム」であるということ。

どんな時代でも、そこに流れるのは職人の手の痕跡と、

日本建築が持つ静かな美しさです。

■ 屋根の下に息づく、建築の原点

垂木は単なる構造材ではありません。

それは、屋根に影をつくり、建物に呼吸を与える存在。

古代から現代まで、変わらず私たちの空間を支えてきました。

Virestoが大切にしているのは、

そんな「見えないところの美しさ」。

構造の中にある美意識を感じながら、

これからも、時間を超えて息づく建築をつくっていきます。